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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)354号 判決

原告 株式会社 三燿 外一名

被告 公正取引委員会

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の申立

原告らは、「被告が昭和五四年判第三号事件につき昭和五五年一〇月二一日に原告らに対してした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二請求原因及び被告の答弁に対する原告らの反論

一  原告株式会社三燿(以下「原告三燿」という。)は、ローヤルゼリーを輸入して販売する事業者であり、原告ジヤパンヘルス株式会社(以下「原告ジヤパンヘルス」という。)は、ローヤルゼリーを他の製造業者に製造委託し、これに自己の商標を付して販売する訴外森谷健康食品株式会社との間の横浜以西の地域における一手販売契約に基づき、右訴外会社の商標を付したローヤルゼリーを販売している事業者である。

二  被告は、昭和五四年九月二〇日、昭和五四年公正取引委員会告示第二七号ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約(以下「本件規約」という。)の認定をしたので、原告らが右認定に対し、不当景品類及び不当表示防止法(昭和三七年法律第一三四号。以下「景表法」という。)第一〇条第六項の規定により不服申立をしたところ、被告は、別紙審決書写しのとおり、当該不服申立を却下する旨の審決(以下「本件審決」という。)をなし、同審決書の謄本は、昭和五五年一〇月二二日に原告らに送達された。

三  しかし、原告らは、本件審決に不服であり、次の諸点について争うものである。

1  原告三燿

本件審決は、原告三燿の不服申立は理由がないとしてこれを却下したが、次の諸点において違法である。

(一) 公聴会における公述についての認定判断は、証拠の取捨選択の経験則に違反し、実質的証拠を欠くものである。

本件審決は、「公聴会における公述の中には、賛成意見も相当にあり、また、反対意見の中にもローヤルゼリー規約案を、更により望ましい内容のものとするために修正意見を陳述したものもあつて、云々」と、公聴会における公述について判断を示し、大多数の公述人が反対している旨の原告三燿の主張を排斥しているが、景第一号証(公聴会速記録)を単に形式的に判断したにすぎず、実質的な内容についての判断がなされていない。すなわち、公述人のうち関係事業者としての公述人は、内藤久義(日本健康自然食品協会理事長)及び松繁克道(日本健康自然食品製造事業者協会理事)だけであり(公述人岸野憲逸、同米山智は、本件規約の認定を申請した全国ローヤルゼリー協議会を代表しているもので、実質的な意味で、関係事業者若しくは学識経験者に該当しない。)、その他は一般消費者の代表であるが、この関係事業者全部と一般消費者の代表のうち五分の四(賛成意見を述べた公正取引委員会消費者センターの森本れい子を一般消費者の代表に加えたとしても、三分の二)がローヤルゼリー規約案に反対しているものであることは証拠上明らかである。

(二) 本件審決は、公正競争規約に参加する事業者の組織率の多募を論ずることは公正競争規約認定に対する不服申立理由とはならないとして、本件規約認定時の参加事業者が少なすぎる点の違法を指摘した原告三燿の主張を排斥している。しかし、参加事業者の全体事業者に対する割合は、公正競争規約認定の適法要件である関連事業者の利益を不当に害するおそれのないこと(景表法第一〇条第二項第二号)を判断するうえで極めて重要な要素となるものであり、参加事業者の組織率の多寡は、当該公正競争規約認定の法的な一要件と考えるべきであり、原告三燿は、少なくとも過半数以上の事業者が参加している必要がある旨主張しているものである。しかも、この組織率を算定する時点は、公正競争規約の認定時を基準とすべきである。そして、本件規約認定時における参加事業者の組織率についてなんら認定をしていない本件審決には、景表法第一〇条第二項第二号の解釈を誤るとともに、理由不備の違法があるものである。

(三) 本件審決は、本件規約の参加事業者の商品にいわゆる「公正マーク」(本件規約第六条第三項第五号に掲げる「証紙」をいう。以下同じ。)を付することが原告ら及び関連事業者に対し不当に差別的である旨の原告三燿の主張について、右公正マークについては本件規約になんら規定されていないとして、その理由だけで右主張を排斥している。しかし、本件規約は一般消費者の利益を害し、かつ、関連事業者の利益を害する違法な規約であるにもかかわらず、これに参加する事業者に対し「公正マーク」の貼付を許す内容となつているもので、原告三燿は、本件規約に参加する資格を有するが本件規約が違法であつてこれに参加できないものであるため、本件規約は、不当に差別的である(景表法第一〇条第二項第三号に違反する。)と主張しているのであり、本件審決には、この主張に対しなんら実質的な判断がされていないので、理由不備、判断遺脱の違法があることは明らかである。

(四) 本件規約第二条第一項においては、生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーについて、移虫後七二時間以内に採取したものをいうものと定めているが、右移虫後七二時間以内に採取したものであることについての検査方法がないとする原告三燿の主張に対し、本件審決は、本件規約の右の定めは単に品質保持の見地からのものであつて検査方法の有無とは関係がないとしてこれを排斥した。しかし、移虫後七二時間以内に採取したものであることの検査方法がない限り、仮に、一〇〇時間後に採取したものを用いて乾燥ローヤルゼリーが製造されたとしても、本件規約に参加している業者の取り扱う商品である限り、七二時間以内に採取したものと取り扱われることとなり、これは、品質の劣化したものを高品質の商品であるかのごとく表示したのと同様であつて、不当表示を助長する結果となる(これは、景表法第一〇条第二項第一号に違反する。)ことは明らかであるが、本件審決には、この点に関する判断がされていないので、理由不備、判断遺脱の違法がある。

(五) 調製ローヤルゼリーのローヤルゼリー含有量について、審決は、本件規約では食品としての観点から表示の基準が作成されているとの理由で、ローヤルゼリーの効能、効果の面から基準を作るべきであるとの原告三燿の主張を排斥している。しかし、調製ローヤルゼリーの組成基準が効能、効果と関連して作成されていることは景第六、第九号証から明白であり、景第一号証に食品ということを明確にするとあるのは医薬品との区別をはつきりさせるためにすぎず、単に一般食品と同様の観点から右組成基準が定められたとする証拠は全くないのであつて、審決の右認定判断は実質的証拠を欠くものである。

次に、ローヤルゼリーの人体への効能、効果を期待して購入する消費者に対し、適切な商品選択の基準を作ることが公正競争規約としては必要不可欠の条件であり、単に参加事業者の取扱商品のうちから最低の含有量の商品を取り上げ、これをもつて基準値と定めるような方法では、単に参加事業者の利益を守るだけであつて、なんら一般消費者の利益とはならず(景表法第一〇条第二項第二号違反)、したがつて、単に一錠中にローヤルゼリー五〇ミリグラム以上等という大雑把な基準ではなく、ローヤルゼリーの含有量を形状別に設定し、その上限と下限の幅を小さくして、どの製品が購入されても同じような量を使用すればよいようにするとともに、価額についても、一定の範囲に統一することができるようにすべきであると原告三燿は主張するものであるが、本件審決は、一方で、ローヤルゼリー含有量については一般食品としての観点から表示の基準が作成されているとの理由で同原告の主張を排斥したが、他方で、消費者の需要がローヤルゼリーの効能、効果を目的としていることを看過しきれず、ローヤルゼリーの摂取量を商品選択の基準として考えるという自己矛盾の内容となつており、右判断には理由齟齬の違法がある。

(六) 「健康食品」の表示は、一つの思想の表現であり、本件規約がこれを禁止することは、思想、表現の自由を侵害するものである(憲法第一九条、第二一条違反)が、本件審決には、この主張に対しなんら判断がされていないので、判断の遺脱がある。

また、もし、本件規約の基準が適切なものであるならば、本件規約に適合した商品に健康食品の表示をしても、一般消費者になんら誤認を与えることにはならないはずであり、そして、一般消費者は、ローヤルゼリーの効能、効果を期待して購入するものであり、このような者に対し、「健康食品」と表示したところで、医薬品との区別を明確にすることにより医薬品としての許可を受けていないものを医薬品として販売しようとする悪質な事業者から一般消費者を守る利益こそあれ、一般消費者になんら不利益を与えるものではない。したがつて、「健康食品」の表示を認めるべきであるにもかかわらずこれを禁止する本件規約を認定することは、関連事業者である原告三燿の利益を不当に害するものであるのに、この点についての同原告の主張につき、なんら合理的理由を示さないままこれを排斥した本件審決には、判断遺脱、理由不備の違法がある。

(七) 組成基準の検査方法として本件規約施行規則に定める方法では基準値に達しないものを基準値内にあるものと認定する可能性が大である旨の原告三燿の主張に対し、本件審決は、単に検査方法が本件規約に定められていないとの理由から、検査方法については不服申立の対象とならない旨判断している。しかし、ローヤルゼリーの組成基準の検査方法なくしてその組成基準を定めてもなんら意味を有しないことは明らかであり、検査方法が適切でない場合には当然組成基準の定めは意味のない形式だけのものになり、そのような商品の組成基準を定めた公正競争規約は、消費者に対し適切な商品選択の基準を与えることにより不当な顧客の誘引を防止することはできないこととなる。したがつて、本件規約に定められた組成基準は、一定の検査方法に基づいて定められたものと解すべきであり、そのため本件規約の施行規則において検査方法を明確にしているのである。検査方法が適切か否かは組成基準を定めたこと自体が適法のものであるか否かに係つてくるのであり、単に形式的に検査方法が本件規約に定められていないから不服申立の理由とならないというものではない。本件審決には、この点に関し景表法第一〇条第二項第一号に違反し、理由不備の違法がある。

2  原告ジヤパンヘルス

本件審決は、原告ジヤパンヘルスは本件規約第二条第二項及び同規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に該当せず、本件規約の認定によつてその事業活動をなんら拘束されるものではないので、本件規約の認定に対し不服申立をする資格を有しないとして同原告の不服申立を却下したが、右却下処分には合理的理由が付されておらず、本件審決は、理由不備の違法がある。原告ジヤパンヘルスは、次の理由により、本件規約の認定に対し、不服申立をする資格を有するものである。すなわち、

(一) 原告ジヤパンヘルスは景表法第一〇条第二項第二号の「関連事業者」に該当し、本件規約の認定処分により自己の権利又は法律上の利益を侵害されるものである。

原告ジヤパンヘルスが本件規約上の事業者に該当しない単なる販売業者であつても、同原告は、本件規約に加盟している事業者からローヤルゼリー商品を仕入れてこれを卸売しているものであり、景表法第一〇条第二項第二号の「関連事業者」に該当するものであるところ、これらの商品には、全日本健康自然食品協会の指導により、すべて健康食品シール(甲第一四号証の一に貼付のもの)をその外箱等に貼付しているのであるから、被告が本件規約に基づき規制を行う場合、右仕入先の事業者が規約を遵守したとしても、右健康食品シールを貼付したローヤルゼリー商品については、原告ジヤパンヘルスに対し、景表法第四条の規定に違反するものとして排除命令が発せられることは容易に予測することができるところである。

つまり、被告が公正競争規約の認定処分を行うのは当該規約が当該業界の正常な商慣習であると認めた場合であるとされていることから、一たん正常な商慣習であると認めたものであるならば、景表法第四条第一号、第二号の規定の解釈基準とされ、あるいは同条第三号に基づく指定の内容に取り入れられることは明白である。したがつて、右規約に参加していない事業者が右各号違反による被告の排除処分を受け、営業上重大な不利益を被る可能性は極めて強く、これを免れるためには相当の費用を投じて規約に準拠したなんらかの対応を迫られることとなるのである。

このように、公正競争規約の認定処分が当該規約が当該業界の正常な商慣習と認めた結果行われるものであるならば、当該規約に参加していない事業者は、その認定された規約が正常な商慣習であるか否かを争う機会が与えられてしかるべきである。正常な商慣習であるならば、参加していない事業者であつてもこれを知つているはずであり、これを守ることは当然の責務である。ところが、業界の正常な商慣習でない勝手な規約が作られ、これが業界の正常な商慣習であると一方的に決められたうえ、規約に参加していない事業者でも、これを守らないときには被告からその行為の差止等の排除命令を受けることとなり、この排除命令をその段階で争つてみても損害を回復し得ないことは明らかである。

したがつて、原告ジヤパンヘルスは、本件規約の認定処分により、上述したとおり、自己の権利若しくは法律上保護された利益(営業の自由、健康食品運動を推進する思想及び表現の自由)を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するものである。

(二) 仮に、本件審決のとおり、本件規約上の事業者のみに本件規約の認定に対し不服申立をすることができる資格があるとしても、原告ジヤパンヘルスは、本件規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に該当するものである。すなわち、被告は、同条に規定する「これらに準ずる事業者」とは「ローヤルゼリーを生産して販売する事業者若しくは製造して販売する事業者又は輸入して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者であつて、これらの事業者と実質的に同一の事業を行つていると認められるもの」をいい、「他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託したローヤルゼリーについて自己の商標又は名称を表示して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者」を含まないと解しているが、右の解釈は誤りである。

本件規約は、ローヤルゼリーの「表示」に関する規約であるから、本件規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」については、商品に付した商標又は名称につき誰がその使用権限を有しているかという観点から右事業者の範囲を定めるべきであり、同条は目的的に解釈されるべきものである。すなわち、自己の商標又は名称を表示して販売するものである限り、他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託する事業者も、自ら生産若しくは製造して販売する事業者も、また、輸入して販売する事業者も何の差異もなく、特に製品を輸入して販売する事業者においては、外国に製造を委託しているのと変りはなく、前記の国内の生産又は製造業者に生産又は製造を委託しているのと全く同一の立場にあるのであるから、このような商標又は名称の使用につき権限を有する事業者と特別の契約関係にある事業者も、当然本件規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に含まれるものと解すべきである。

ところで、原告ジヤパンヘルスは、上記第二の一において述べたとおり、森谷健康食品株式会社との間の横浜以西の地域における一手販売契約に基づき同訴外会社の商標を付したローヤルゼリーを販売している事業者であるが、右一手販売契約の内容は、ローヤルゼリー商品の総発売元としての表示に関する右訴外会社の権限につきその横浜以西におけるものの原告ジヤパンヘルスへの移譲を意味するのであり、上記本件規約施行規則第一条にいう「特別の契約関係にある事業者」に該当する。したがつて、右訴外会社が本件規約の認定につき「法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者」に該当するものである以上、原告ジヤパンヘルスも右訴外会社と同一の地位にあるものである。

第三被告の答弁及び反論

一  請求原因第一項中、原告三燿がローヤルゼリーを販売していることは認めるが、同原告がこれを輸入していることは不知、原告ジヤパンヘルスがローヤルゼリーを販売していることは認めるが、同原告が訴外森谷健康食品株式会社との間にローヤルゼリーの販売契約を締結していることは不知。

二  請求原因第二項の各事実は、いずれも認める。

三  請求原因第三項は、争う。

1  原告三燿の主張に対する反論

(一) 公聴会の公述の意味について

公正競争規約の認定手続においては、公聴会の開催は景表法上の要件とされているものではなく、ただ公正取引委員会が必要と認める場合に公聴会を開いて一般の意見を求めることができるものとされているにすぎず、しかも、公正競争規約の認定は、公述人の意見の内容に拘束されるものではない(ちなみに、景第一号証に明らかなとおり、本件公聴会における公述人の大部分が反対意見であるとはいえない。)から、原告三燿の三1(一)の主張は失当である。

(二) 本件規約認定時における規約参加事業者の数について

公正競争規約に参加する事業者の組織率は、当該公正競争規約を認定するための要件ではないから、参加事業者の組織率が高くないことをもつて本件審決を取り消すべき理由とはなし得ない(ちなみに、本件規約認定後の昭和五四年一二月一五日現在における本件規約参加事業者の取り扱うローヤルゼリーの数量は、全体の七四パーセントであるから、右取扱量からみて、本件規約は、当該業界の相当部分を占める事業者の参加を得ているものである。)から、原告三燿の三1(二)の主張は失当である。

(三) 公正マークの使用と不当差別について

景表法第一〇条第二項第三号の趣旨は、規約に参加した者の間で不当に差別的でないことということであつて、本件規約に参加しない原告三燿に対し差別的問題を生ずる余地はない。すなわち、「公正マーク」は、本件規約に参加する事業者に利益を与えることを目的としたものではなく、単に右規約を遵守している証として貼付するものであつて、これが貼付されたからといつて、関連事業者の利益を不当に害するおそれがないことは明らかであるから、原告三燿の三1(三)の主張は失当である。

(四) ローヤルゼリーの検査方法の不備と不当表示について

ローヤルゼリーの生産においては、移虫後七二時間を経過すると蛹化のため幼虫が脱糞する等により品質が低下するおそれがあるので、品質保持の見地から、移虫後七二時間以内に採取することが当該業界では適当であると考え本要件が設けられたものであり、当該要件及び本件規約施行規則別表に定める性状、組成基準の要件と合わせて、生ローヤルゼリーの品質の保持を図つているものである。なお、仮に、本件検査方法が完全なものでないとしても、そのために、原告三燿が主張するように、本件規約のように移虫後七二時間以内に限定することが却つて同時間を越えるものまで右七二時間以内のものとして取り扱われることとなり、消費者の商品選択の基準を歪め、不当表示を助長する結果となるというようなことはないことは明らかであるから、原告三燿の三1(四)の主張は失当である。

(五) 生ローヤルゼリーの含有量について

調製ローヤルゼリー中の生ローヤルゼリーの最低含有量について、全重量の六分の一という基準を採用したのは、当時市販されていたローヤルゼリー製品の生ローヤルゼリー含有量を勘案し、学識経験者の意見を参考にして、これを適切なものであると判断した結果である。本件規約においては、調製ローヤルゼリー中の生ローヤルゼリーの含有量の表示を義務づけているのであるから、それにより、摂取量又は価格について一般消費者に選択の基準が与えられており、一般消費者になんら不利益を与えるものではなく、原告三燿の三1(五)の主張は失当である。

(六) 「健康食品」の表示について

元来、「健康食品」なる用語はあいまいで、かつ、特に、健康のために有益であるかのごとく一般消費者に誤認されかねないものであることから、本件規約の参加事業者が自主的に「健康食品」の表示を自粛することとし、本件規約の公聴会において消費者代表もこの用語の排除に賛成したので、被告は、この用語の排除を適切と考え、本件規約を認定したものである。なお、本件規約に参加しない事業者が本件規約による拘束を受けないことは、公正競争規約の性格上明らかであり、また、本件規約が認定されたからといつて、そのことにより、上記「健康食品」の表示が直ちに景表法第四条違反になるものではなく、したがつて、本件規約が原告三燿の思想の自由、表現の自由、営業の自由をなんら侵害するものでないことは明らかであるから、同原告の三1(六)の主張は失当である。

(七) 組成基準の検査方法について

本件規約施行規則に定める検査方法は、現段階においては一般的に用いられている方法であり、当該検査方法を採用することに問題はないから、原告三燿の三1(七)の主張は失当である。

2  原告ジヤパンヘルスの主張に対する反論

(一) 原告ジヤパンヘルスが景表法第一〇条第二項第二号の「関連事業者」に該当する旨の主張については、同号の「一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと」とは、公正取引委員会が複数の事業者の内部における自主規制としての公正競争規約を認定する際に考慮すべき要件の一つとして定められたものであるが、当該要件は、同項に規定された他の要件とともに、景表法の目的とする公益の実現を図るために規定されたものであり、この規定があることからそれを根拠に一般消費者及び関連事業者に対し不服申立の資格を付与したものではない。すなわち、景表法の規定により一般消費者及び関連事業者が受ける利益は、同法の規定の目的である公益の保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であるから、仮に、ある公正競争規約の認定が正当になされなかつたとしても、一般消費者及び関連事業者としては、景表法の規定の適正な運用によつて得られるべき上記反射的な利益ないし事実上の利益が得られなかつたにとどまり、その本来有する法律上の地位には、なんら消長を及ぼすものではないから、原告ジヤパンヘルスが同号にいう関連事業者であるというだけでは、本件規約の認定に対し不服申立をする法律上の利益を有する者には当らず、同原告は、右不服申立の資格を有しない。

ところで、原告ジヤパンヘルスは、同原告が本件規約の内容に違反した行為をした場合、景表法第六条の排除命令を受けることになり、これを免れるために相当な費用をかけて本件規約に準拠しなければならないので、本件規約の認定により損害を受けることになると主張するが、同原告が本件規約で禁止している表示をした場合に必ず景表法第四条の規定に違反することになるものでないことは後述のとおりであり、仮に規約で禁止している表示を行い排除命令を受けることがあるとすれば、それは本件規約に違反しているからではなく、景表法第四条の規定に違反するからである。

なお、原告ジヤパンヘルスは、本件規約の認定により、それが当該業界の正常な商慣習と認められ、本件規約が当然同条第一号、第二号の規定の解釈基準とされ、また、同条第三号に基づく指定の内容に取り入れられると主張するが、同条第一、二号の適用要件と同法第一〇条第一、二項の規約の認定要件とは同じではないし、右両条を直接関連付ける規定もないので、規約の内容と同法第四条第一、二号の規定の運用が必ずしも一致するものではないことは当然であり、規約で禁止している表示が同法第四条第一、二号の規定に違反する表示でないこともあり得るのである。また、規約が同条第三号の指定の内容に当然に取り入れられるというような実態はない。

以上のとおり、原告ジヤパンヘルスは、本件規約の認定処分により、必然的に、一般の事業者として受ける以上に特別の利益を害されるおそれがあるものとはいえないから、右同原告の三2(一)の主張は失当である。

(二) 次に、原告ジヤパンヘルスは、本件規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に該当し、本件規約の認定により法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある旨仮定的に主張するが、本件規約に参加することができる事業者は、本件規約第二条第二項、同施行規則第一条に規定する「ローヤルゼリーを生産して販売する事業者、製造して販売する事業者及び輸入して販売する事業者並びにこれらに準ずる事業者」であるところ、原告ジヤパンヘルスは、右事業者のいずれにも該当しない単なるローヤルゼリー商品の販売業者にすぎず、そして、本件規約は、右原告のようなローヤルゼリーの販売業者にはなんらの義務を課するものではなく、原告ジヤパンヘルスは、本件規約の認定によりその事業活動をなんら制約されることはないのであるから、当該処分により法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当しないことは明白であり、右同原告の主張は失当である。

理由

一  被告が昭和五四年九月二〇日昭和五四年公正取引委員会告示第二七号ローヤルゼリーの表示に関する本件規約の認定をしたこと、ローヤルゼリーを販売している原告らが右認定に対し景表法第一〇条第六項の規定により不服申立をしたので、被告は別紙審決書写しのとおり審決したこと、同審決書の謄本が昭和五五年一〇月二二日原告らに送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告三燿の主張についての判断

1  請求原因及び被告の答弁に対する原告らの反論三1(一)について

公正競争規約の認定手続においては、公聴会の開催は景表法上の要件とされているものではなく、被告は必要があれば公聴会を開き一般の意見を求めることができるが、その場合であつても、公正競争規約の認定をするについては、公述人の意見の内容に拘束されるものではない(なお、景第一号証によれば、本件公聴会における公述人の意見中には、原告三燿の主張するように相当数の反対意見があつたが、その大部分は単に、調製ローヤルゼリー中の生ローヤルゼリーの最低含有量を六分の一としているのが少なすぎること、又は健康食品等の用語の使用が例外的に認められる余地のあることのみを理由として、本件規約の認定に反対しているものであることが認められる。)。したがって、公述人の賛成意見の多寡は、そもそも不服申立の理由となるものではなく、原告三燿のこの点に関する主張は失当である。

2  同三1(二)について

公正競争規約に参加する事業者の組織率は、当該公正競争規約を認定するための要件ではないから、参加事業者の組織率の多寡は、公正競争規約の認定に対する不服申立の理由とはなしえない、とした本件審決の判断は相当として是認することができる。

原告三燿は、参加事業者の全体事業者に対する割合が少ないときは、規約が関連事業者の利益を不当に害するおそれがある(景表法第一〇条第二項第二号参照)から、規約の認定には過半数以上の事業者の参加を必要とすると解すべきであると主張するが、単に組織率が低い(景第一号証中全国ローヤルゼリー協議会理事長大西勝の説明の記載部分によれば、本件規約認定前における組織率は、商品の取扱量で四五パーセントから五〇パーセント位、事業者数で四〇パーセントから四五パーセント位であつた。なお、景第一〇号証によれば、本件規約認定後間もない昭和五四年一二月一五日における組織率は、商品の取扱量で七四パーセントに達している。)というだけで関連事業者の利益が不当に害されることになるとはいえないから、右主張は採用することができない。

3  同三1(三)について

原告三燿の主張する「公正マーク」は本件規約第六条第三項第五号に掲げる「証紙」を指称するものであるから、本件審決が本件規約には「公正マーク」についてなんら規定がないという理由で同原告の主張を排斥したのは相当でない。しかし、右証紙は本件規約に参加している事業者に対しその証拠として交付されるものであつて、これを貼付した商品が参加事業者の商品であることを表示する趣旨のものと解されるから、これをもつて同原告のように本件規約に参加していない関連事業者に対し不当に差別的であるとか、本件規約が一般消費者や関連事業者の利益を害する違法な規約であるとすることはできず、この点に関する同原告の主張も、結局採用することができない。

4  同三1(四)について

本件規約が生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーについて移虫後七二時間以内に採取したものをいうと定め、本件規約に参加している事業者が移虫後七二時間経過後に採取したものをあたかも生ローヤルゼリー又は乾燥ローヤルゼリーであるかのように誤認させるおそれがある表示をして取引することを禁止していることは、原告三燿の主張するとおりである。同原告は、右規約の定めについては検査方法がなく、その結果不当表示を助長し、適切でない(景表法第一〇条第二項第一号参照)と主張するが、本件規約は、その定めに違反する疑があるときは公正取引協議会においてこれを調査し、違反事実があると認めるときは、警告、制裁等の措置を講ずることとして(本件規約第六条第三項第三号・第四号、第七条、第八条参照)、前記採取時期の定めの実効性を保障しているのであるから、本件規約が不当表示を助長することになるとはいえず、この点に関する同原告の主張もまた理由がない。

5  同三1(五)について

本件規約に定めるローヤルゼリーの含有量は、食品としての観点から作成されたものであつて、医薬品としての効能、効果と関係して作成されたものでない、とする本件審決の認定判断は、景第一号証、同第六号証、同第九号証に照らし、相当として是認することができる。

原告三燿は、ローヤルゼリーの含有量を定めるについては、ローヤルゼリーの人体への効能、効果を期待して購入する消費者に対し適切な選択の基準を作るべきであると主張するが、景第一号証中財団法人日本食品分析センター基礎試験部規格試験課長米山智の公述の記載部分及び景第六号証によると、本件規約が第二条第三号において調製ローヤルゼリー中の生ローヤルゼリーの含有量について全重量の六分の一以上という基準を採用したのは、当時市販されていたローヤルゼリー製品の生ローヤルゼリー含有量を勘案したうえでそれが最低の基準として適切であると認められたからであるとの事実を認定することができ、この事実にかんがみると、前記のごとくローヤルゼリーの含有量を食品としての観点から作成したことは不相当であるとは認められないのみならず、本件規約においては、ローヤルゼリーの取引に際し、生ローヤルゼリー含有量の表示を義務づけている(本件規約第三条第一項第三号参照)のであるから、それにより、摂取量又は価格について一般消費者の選択の基準が与えられており、一般消費者になんら混迷を与えるものではなく、これと同旨の本件審決の判断は相当であつて、所論の違法は存しない。原告三燿のこの点に関する主張も理由がない。

6  同三1(六)について

本件規約は、これに参加する事業者が自主的に「健康食品」という表示を自粛することとしたものであつて、右規約の認定が一般消費者の利益を害し、又は関連事業者の利益を害するものではない、とした本件審決の判断は、本件規約の性質及び「健康食品」なる用語の意味内容が不明確であることを合わせ考えると、相当であり、右判断には所論の違法は存しない。原告三燿のこの点に関する主張も失当である。

7  同三1(七)について

本件規約(別表)に定められているローヤルゼリーの組成基準の検査方法は、本件規約施行規則に定められているものであるところ、同規則は、本件規約第一〇条の規定に基づき公正取引協議会が事前に公正取引委員会の承認を受けて定めるものであつて、本件規約とは別個のものであるから、右検査方法が不適切であることを理由とする原告三燿の主張は、本件審決のいうごとく、本件規約の認定処分に対する不服申立の理由となるものではない。のみならず、景第一号証中財団法人日本食品分析センター基礎試験部規格試験課長米山智の公述の記載部分によれば、右検査方法は現段階においては一応相当と認められるものであつて、基準値に達しないものを基準値内のものと誤認する可能性が大きい旨の同原告の主張を認めるに足る証拠もないから、右主張もまた採用することができない。

三  原告ジヤパンヘルスの主張についての判断

被告が行つた公正競争規約の認定に対し景表法第一〇条第六項の規定により不服申立ができる者は、当該認定処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのあるものに限られるものであるところ、本件審決は、原告ジヤパンヘルスには本件規約の認定処分に対する不服申立の資格が認められないとして、同原告の申立を却下したのである。

1  これに対し、原告ジヤパンヘルスは、本訴において、同原告が右不服申立の資格を有する理由として、まず、同原告が景表法第一〇条第二項第二号に掲げる「関連事業者」に該当し、本件規約の認定処分により自己の権利又は法律上の利益を侵害されると主張する。

しかし、景表法第一〇条第二項第二号に掲げる「一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと。」とは、公正競争規約を認定するに際して考慮すべき要件の一として定められたものであり、この規定にいわゆる「一般消費者及び関連事業者の利益」とは法律上保護された利益に該当しない事実上の利益ないし一般的利益をも含むものであるから、この規定があることによつて「一般消費者」や「関連事業者」が公正競争規約認定処分により侵害され又は侵害されるおそれのある権利又は法律上保護された利益を有するとすることはできない。したがつて、原告ジヤパンヘルスが同号にいう関連事業者に該当するというだけでは、同原告が本件規約の認定に対し不服申立の資格を有すると認めることはできない。

この点に関連して、原告ジヤパンヘルスは、被告が本件規約を認定したことは、それによる表示基準を当該業界の正常な商慣習と認めたことになり、それが当然景表法の解釈、運用にも影響を及ぼし、同法第四条第一、二号の規定の解釈基準とされ、また、同条第三号に基づく指定の内容に取り入れられることになるのであつて、その結果たとえば、同原告がローヤルゼリー商品の外箱に健康食品シールを貼付して販売した場合には、同法第四条の規定に違反するとして、同法第六条第一項の排除命令が発せられることになるのであるから、同原告は本件規約の認定により法律上の利益を害されることになると主張する。しかし、本件規約は同規約所定の「事業者」であつてこれに加入したものに対してのみ一定の義務を課するものであるから、仮に同規約に参加する資格を有しない関連事業者が本件規約に違反する行為、特に、同原告が主張するように「健康食品」の表示をしたとしても、それが本件規約に違反することになるものでないことはもちろん、被告が本件規約を認定したとの一事によつて本件規約の表示基準が直ちに当該業界の正常な商慣習となるものではないから、少なくとも右行為が本件規約に違反するというだけの理由ではその行為が当然同法第四条に違反するものとして同法第六条第一項の排除命令の対象となるということはできない。よつて、同原告の右主張は理由がない。

2  次に、原告ジヤパンヘルスは、同原告が本件規約第二条第二項及び同規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に該当し、本件規約の認定により法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがあると主張する。

しかし、原告ジヤパンヘルスは、その主張するところによれば、ローヤルゼリーを他の製造業者に製造委託しこれに自己の商標を付して販売する訴外森谷健康食品株式会社との間の販売契約に基づき同訴外会社の商標を付したローヤルゼリーを販売している事業者である、というのであつて、仮にそうであるとしても、本件規約施行規則第一条によれば、本件規約第二条第二項にいう「これらに準ずる事業者」には、「他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託したローヤルゼリーについて自己の商標又は名称を表示して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者」は含まれないから、同原告は、右「これらに準ずる事業者」には該当しないというべきである。この点に関し、同原告は、右規則第一条を目的的に解釈し、このような商標又は名称の使用につき権限を有する事業者と特別の契約関係にある事業者である同原告も同条に定める「これらに準ずる事業者」に含まれるものと解すべきであると主張するが、同原告主張のような解釈は本件規約施行規則第二条の文理に反するのみならず、本件規約が、ローヤルゼリーの生産、製造、輸入に関与しない単なる販売業者を本件規約上の事業者に加えていない趣旨から考えると、同原告主張のように拡張して解釈することは相当でない。したがつて、同原告は、本件規約上の事業者として本件規約の認定処分により法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するものではないことが明らかであり、この点に関する同原告の主張も失当である。

3  よつて、同原告の不服申立の資格についての本件審決の判断は正当である。

四  以上の次第で、本件規約の認定処分に対する原告三燿の不服申立は理由がないものというべく、また、原告ジヤパンヘルスは右認定処分に対する不服申立の資格を有しないと解すべきものであるから、同原告らの右不服申立を景表法第一〇条第六項の規定によりいずれも却下した本件審決は相当であり、その取消を求める同原告らの本訴各請求は棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川島一郎 小林信次 吉井直昭 浦野雄幸 河本誠之)

別紙

昭和五四年(判)第三号

審決

東京都港区赤坂三丁目一五番五号

不服申立人     株式会社三燿

右代表者代表取締役 森竹政雄

東京都世田谷区経堂四丁目一六番九号

不服申立人     ジヤパンヘルス株式会社

右代表者代表取締役 内藤辰男

右二名代理人弁護士 木津川迪洽

公正取引委員会は、右不服申立人らから昭和五四年一〇月二四日、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第一〇条第六項の規定に基づき、ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約(昭和五四年公正取引委員会告示第二七号。以下「ローヤルゼリー規約」という。)の認定に対し、不服申立てがあつたので、審判手続を経て次のとおり審決する。

主文

本件不服申立てを却下する。

理由

一 不服申立人らは、公正取引委員会が、昭和五四年九月二〇日全国ローヤルゼリー協議会の申請に係るローヤルゼリー規約について行つた認定は、景品表示法第一〇条第二項各号の要件に該当せず、違法又は不当であるから、公正取引委員会は、右認定を取り消すべきであるとして、同年一〇月二四日付けで当委員会に対し不服申立てを行つた。

二 不服申立人らのうち、ジヤパンヘルス株式会社は、次の理由によりローヤルゼリー規約第二条第二項及び同規約施行規則第一条に定める「これらに準ずる事業者」に該当するものであり、ローヤルゼリー規約の施行により法律上保護された自由な営業に基づく利益を侵害されることになるので、同規約の認定につき不服申立人たる適格を有するとしている。

(一) ローヤルゼリー規約施行規則第一条は、「これらに準ずる事業者」とは、「他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託したローヤルゼリーについて自己の商標又は名称を表示して販売する事業者若しくは製造して販売する事業者又は輸入して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者であつて、これらの事業者と実質的に同一の事業を行つていると認められるものをいう。」と定めており、ここに定める「特別の契約関係にある事業者」とは、家庭電気製品における系列一手販売会社のような事例をさし、この系列一手販売会社とは同製品の地区販売会社いわゆる問屋をさす。

(二) ローヤルゼリーの製造業者であるモリヤハチミツ株式会社、同社に同商品を製造委託している森谷健康食品株式会社及びジヤパンヘルス株式会社の三社は、資本的にも人的にも密接な関係にある企業グループであり、かつ、ジヤパンヘルス株式会社は、森谷健康食品株式会社が、モリヤハチミツ株式会社に製造委託した商品を横浜以西の小売業者らに一手販売をしており、ジヤパンヘルス株式会社は、森谷健康食品株式会社との関係において家庭電気製品における系列一手販売会社と同一の地位にある。

(三) したがつて、ジヤパンヘルス株式会社は、ローヤルゼリー規約で規定する事業者であり、かつ、同規約に参加しないいわゆるアウトサイダーであるところ、ローヤルゼリー規約で定める内容は、景品表示法の運用基準としても用いられるので、いわゆるアウトサイダーであつても同規約に違反する場合には、同規約を基準として排除処分を受けることになるから、同規約の内容に反対する者の不利益は重大である。

三 不服申立人らが主張する不服申立ての理由の要旨は、次の五点にあるものと認められる。

(一) ローヤルゼリー規約は、一部の事業者団体の利益のために認定されたもので何ら消費者の利益に資するものではない。

イ ローヤルゼリー規約の認定に先立つて開催された公聴会において、大多数の公述人が反対意見を述べている。

ロ 事業者のうち、過半数の者が当該公正競争規約に参加することが必要であるのに、申請団体である全国ローヤルゼリー協議会の組織率は四〇パーセントに満たない。

ハ このように少数の加盟事業者の製品に対してのみ公正マークを認めることは、多数の非加盟事業者にいわれのない差別をすることである。

(二) 乾燥ローヤルゼリーについては、移虫後七二時間以内に採取されたものかどうか検査方法がないのであるから、移虫後七二時間経過して採取した生ローヤルゼリーを乾燥処理したものを、乾燥ローヤルゼリーと表示する可能性があり、これは不当表示を助長するものである。

(三)イ ローヤルゼリーは、そのまま人体に摂取されたのでは、胃酸により酸化してその効用は発揮されないものであるところ、ローヤルゼリーの酸化を防ぎ、人体に摂取され易い形として最も簡便な方法は、はちみつとの混合であり、しかも、その場合ローヤルゼリーが一〇分の一以下でなければ、その効用が阻害されるが、かかる製品は調製ローヤルゼリーと称することが許されない。このようなローヤルゼリー規約を認定したのでは、ローヤルゼリーそのものを食用することが最も効用のある方法であるという誤解が助長される。

ロ ローヤルゼリー規約で定義する調製ローヤルゼリーでは、生ローヤルゼリーの含有量の幅が広すぎ、消費者に混迷を与える。

(四)イ ローヤルゼリー規約第四条第四号及び同規約施行規則第四条第六号は、先に天然自然食品等公正取引協議会設立準備委員会の提出した「天然自然食品等の表示に関する公正競争規約案」を無視し、単品であるローヤルゼリーについて、天然、自然等の文言の表示を禁止することにより、すべての天然、自然食品に共通の基準を作成しようとした右公正競争規約案のなし崩しを謀るもので、自然食品の製造、卸売、小売関係業者の利益を不当に害するものである。

ロ ローヤルゼリー規約第四条第五号及び同規約施行規則第四条第七号は、既に国民の間に定着している「健康食品」等の表示を駆逐するもので社会的妥当性に欠けるものである。

(五) 調製ローヤルゼリー中の生ローヤルゼリー含有量についての検査方法は疑問であり、その組成基準に合致しないものまで調製ローヤルゼリーと表示することを可能とする。

四 本件不服申立人らのうち、ジヤパンヘルス株式会社の不服申立ての資格についての判断は、次のとおりである。

(一) 景品表示法第一〇条第一項により公正取引委員会が行つた公正競争規約の認定に対する不服申立ては、行政上の不服申立ての一種にほかならないのであるから、同法同条第六項にいう「第一項‥‥の規定による公正取引委員会の処分について不服があるもの」とは、一般の行政処分についての不服申立ての場合と同様に、当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に限られるべきことについては、既に、昭和五三年三月一四日付けの最高裁判所判決(昭和四九年(行ツ)第九九号事件)によつて明らかにされている。

(二) ローヤルゼリー規約は、ローヤルゼリーを生産し販売すること、製造し販売すること及び輸入して販売することに伴つて行われる表示に関するもので、ローヤルゼリーの規格、必要な表示事項、不当表示の禁止等を義務づけているものであるから、同規約の認定によつて、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者とは、同規約によつて一定の義務を課せられることがあるもの、すなわち、同規約で規定する事業者に該当するものである。

(三) ジヤパンヘルス株式会社は、不服申立人たる資格を有する理由として、同社がローヤルゼリー規約施行規則第一条で規定する「これらに準ずる事業者」に該当するとし、「これらに準ずる事業者」の定義規定の文言を一部省略して引用することによつて、全体として同規則の定義規定と相違する定義を定立している。しかるに、同規則によれば、「これらに準ずる事業者」とは、「他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託したローヤルゼリーについて自己の商標又は名称を表示して販売する事業者」及び「ローヤルゼリーを生産して販売する事業者若しくは製造して販売する事業者又は輸入して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者であつて、これらの事業者と実質的に同一の事業を行つていると認められるもの」であり、「他の生産又は製造業者に生産又は製造を委託したローヤルゼリーについて自己の商標又は名称を表示して販売する事業者と特別の契約関係にある事業者」は、同条でいう「これらに準ずる事業者」に該当しないことは明らかである。したがつて、ジヤパンヘルス株式会社は、他の製造業者に製造を委託したローヤルゼリーについて自己の名称を表示して販売する事業者である森谷健康食品株式会社と特別の関係にあるからといつて、「これらに準ずる事業者」にはあたらない。

(四) 以上のとおり、ジヤパンヘルス株式会社は、ローヤルゼリー規約の認定によつて、その事業活動を何ら拘束されるものではないので、同社には不服申立ての資格は認められない。

五 不服申立人株式会社三燿(以下「三燿」という。)が主張する不服申立ての理由についての判断は、次のとおりである。

(一) 前記三(一)について

イ 公聴会における公述の中には、賛成意見も相当にあり、また、反対意見の中にもローヤルゼリー規約案を、更により望ましい内容のものとするために修正意見を陳述したものもあつて、公述人の大多数が、反対意見であるとはいえない。

ロ 公正競争規約に参加する事業者の組織率は、当該公正競争規約を認定するための要件ではない。したがつて、参加事業者の組織率の多寡を論ずることは、本来、公正競争規約の認定に対する不服申立ての理由とはなりえないものである。ただ実際上公正競争規約で定める表示の基準が、当該業界の慣行として定着し、適正な表示の基準となるためには、当該公正競争規約に参加する事業者の数又はその取り扱う該当商品の数量のいずれかにおいて、その業界の相当部分を占めることは望ましいといえる。ところで、これをローヤルゼリー規約についていうならば、景第一〇号証に見られるように、ローヤルゼリー規約認定後の昭和五四年一二月一五日において、同規約参加事業者の取り扱うローヤルゼリーの数量は、全体の七四パーセントであつて、ローヤルゼリー業界の大部分を占めており、実際上も望ましい状態にあることが明らかである。

また、不服申立人三燿は、ローヤルゼリー規約の参加事業者の製品に公正マークを付けることが不当に差別的であるという。しかし、ローヤルゼリー規約には公正マークについて何ら規定されていないのであるから、この点も不服申立ての理由とすることはできない。

(二) 前記三(二)について

ローヤルゼリー規約第二条第一項で、生ローヤルゼリーとは、移虫後七二時間以内に採取したものと規定し、乾燥ローヤルゼリーについても、かかる定義でいう生ローヤルゼリーを乾燥処理したものとしているのは、一般消費者に提供するローヤルゼリーの品質保持の見地からであつて、検査方法の有無とは関係がない。

(三) 前記三(三)について

イ ローヤルゼリーは、食品として一般的に販売されている。したがつて、ローヤルゼリー規約はあくまで食品としてのローヤルゼリーの表示の適正化のために作成されたものである。このため、ローヤルゼリーが純粋なものであるか、どの程度に生ローヤルゼリーを含んでいればローヤルゼリーの名を冠してよいかなど、食品としての観点から表示の基準が作成されており、ローヤルゼリーの効能効果と関係して作成されているものではない。

ロ 調製ローヤルゼリーの生ローヤルゼリー含有量について全重量の六分の一以上という基準を採用したのは、当時市販されていたローヤルゼリー製品の生ローヤルゼリー含有量を勘案したうえでのことであるから、最低の基準としては適切である。

更に、不服申立人三燿は、ローヤルゼリー規約で定義する調製ローヤルゼリーでは、生ローヤルゼリーの含有量の幅が広すぎるというが、同規約上、生ローヤルゼリーの内容量の表示を義務づけているのであるから、それにより摂取量又は価格について、一般消費者の選択の基準が与えられており、一般消費者に何ら混迷を与えるものではない。

(四) 前記三(四)について

天然、自然、健康食品等の文言は、その定義が明確でなく、その用語の使用によつては、対象商品の品質が優良であると一般消費者に誤認されるおそれがある。したがつて、特定の業界において、これらの文言を使用することを自粛することは、公正な競争を確保し、消費者の商品選択を保護するうえで望ましいものであり、一般消費者の利益を害し又は関連事業者の利益を害するものではない。

(五) 前記三(五)について

検査方法は、ローヤルゼリー規約に規定されているものではないので、不服申立ての対象とはならない。

(六) 以上述べたところによつて明らかなように、不服申立人三燿の本件不服申立ては理由がない。

六 右に説示したとおり、不服申立人ジヤパンヘルス株式会社については、不服申立ての資格がなく、不服申立人三燿の不服申立てについては理由がないので、いずれも、景品表示法第一〇条第六項の規定を適用し、主文のとおり審決する。

昭和五五年一〇月二一日

公正取引委員会

委員長 橋口収

委員  熊田淳一郎

委員  野口一郎

委員  後藤英輔

委員  平田胤明

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